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「今なら、止められるよ?」
「何バカなこと言ってるんだよ! さっさとしろよ。…早くっ」
「潤、好きだよ」
 
黒瀬が潤を見つめ、潤が黒瀬を見上げ、お互いの視線を絡めたままの状態で、黒瀬が潤の中に尿を放出し始めた。

「…あぁ…、温かいよ…、黒瀬…」
 
温かい液体が、潤の中に流れこんでくる。
染みると予想していたが、内壁に薬が薄い壁を作っているのか、染みることはなかった。
どくどくと注ぎ込まれる黒瀬から溢れるもので、自分の中が満たされていく。
それに対する嫌悪感は一切生まれず、黒瀬のものを受け入れているという悦びばかりが湧き上がってくる。
これが、浣腸だということすら、忘れてしまいそうになる。普通のセックスよりも繋がりの深い尊い行為のような気すらしてくる。

「全て潤の中に入ったから」
 
恍惚の表情を浮かべる潤に黒瀬が出しきったことを告げ、袋からアナルプラグを取り出し、差し込んだ。

「ここからが、潤には辛いね」
 
潤が少しは楽になるようにと、潤の身体を右側が下になるように横にし、脚をくの字に曲げさせた。
アナルプラグが抜けないように、黒瀬が自分の右手をプラグの上に置いき、そのまま、潤の横に添い寝をするように身体をずらした。

「…しがみついててもいい?」
「いいよ」
「…ありがとう…」
 
黒瀬の胸に身体を密着させ、そのまま黒瀬のガウンにしがみついた。
嫌という程経験した浣腸液による辛さも、今回は違った。体内で、排泄を促そうと働いているのが、黒瀬の身体から放出されたものだと思うと、耐えなければと思う。
グルグルと腹の中が蠢きはじめ、体中の汗腺から冷たい汗が湧いてくる。お互いの排泄物同士が混じり合っているのかと思うと、その苦しみさえも、嬉しかった。

「まだ、我慢できる?」
「…うん…」
 
ギリギリまで、本当に限界まで、自分の中に留めておきたかった。
キュルキュルと、恥ずかしい音が鳴り始め、もう終わりも近づいていた。
最後は息をするのが苦しいほど辛く、黒瀬のガウンを掴む指先が力の入れすぎで白くなっていた。

「もう、出さないとね」
 
限界のはずの潤がそれを口にしないので、黒瀬が終わりを告げた。
小刻みに震える潤を黒瀬が壊れ物を扱うように優しく抱き上げ、そして便座へと運ぶ。潤を降ろすと、直ぐに前から手を持っていき、プラグを抜いた。

「潤、力を抜きなさい」

そう告げると、イギリスのアパートメントホテル滞在時同様、黒瀬が潤の頭を胸に抱え込んだ。
あの時とは違って、潤が「一人がいい、出て行け」と叫ぶことはなかった。むしろ、潤は二人でこの排泄を完結させたかった。 
どんな匂いが立ちこめようと、どんな音がしようと、どんな物が排出されようと、それは自分一人のものではない。
自分と黒瀬のモノだから、多少の羞恥はあっても、それから逃げるのは違うと思った。
これが、普通に浣腸を施されたのなら、排泄行為を黒瀬に見られるのは耐えられない羞恥が、潤を襲ったかもしれない。
排尿すら、抵抗があったのだから。でも、これはもうただの排泄行為ではなかった。
プラグを抜かれても我慢してしまったのは、それを見られたくないというよりは、黒瀬の手を汚したくはないという意識が働いてのことだった。

「…大丈夫…だから…、キスして…」

切羽詰まった状態の潤が苦悶の表情で、キスをせがんだ。黒瀬が腰を落とし、それに応える。
震える潤の唇に黒瀬の唇が重なる。黒瀬の熱を感じた瞬間、ブルッとからだが大きく震え、潤の体内から一気に溜め込んでいたものが、外に出た。
その間中、黒瀬が潤の口内を優しく甘く蹂躙していた。 
身体が苦痛から解放されると同時に、潤はなんとなく寂しい気がしていた。あっという間に全てを出しきり、もう何も出なくなっても、二人は唇の重なりをしばらくは解かなかった。
黒瀬が顔を離すと、潤の顔には涙の筋ができていた。

「辛かった?」
「ううん、なんか感動した……」
「私も。潤と深く繋がった気がする」
「なあ、黒瀬、俺たち変態なのかな? こんなこと、普通は感動しないよな…。ふつう、思いつきもしないだろ?あれ、思いついたの黒瀬だから、俺たちじゃなくて、黒瀬一人が変態?」
「潤限定の変態かもね。二人一緒に感動したなら、変態でもいいじゃない? でも、時枝には内緒にしとこうね。薬買いに走らせたのに、使用してないというと文句いわれそうだから。それに、また『何やってるんですか!』ってヒス起こしそうじゃない?」
「この感動は、時枝さんには多分理解できないと思う」
「頭、硬いからね」
 
命令とはいえ、レイプの手伝いをするような人間のどこが頭硬いのかは、甚だ疑問ではあるが、この二人からしてみれば、時枝は堅物の部類に入っていた。

「なあ、スペシャルって何だった?」
「興味あるの?」
「だって、思いつかないからさ…」
 
黒瀬が袋の中から、変な形のものを取り出した。

「可愛いだろ? 中は普通にグリセリンだけど、形がね。これ、円盤だから。UFOだよ」
 
丸い饅頭のような容器に管が長く伸びている。こんなものに、可愛いも何もないと思うのだが……。

「わざわざ三種類指定して買ってきてもらったとか?」
「違うよ。エネマってメモに書いてたら、時枝が勝手にアレコレ買ってきただけ。時枝の趣味じゃない?」
 
潤にはいまいち時枝という人間がよく分からなかった。
でも、もしかしたら、お茶目な面もあるのかも知れないと、このUFO型の浣腸薬を見て思った。