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「この部屋にティッシュあるのか?」
「…うん…この下に…たくさん…」

少年が踞っている側のソファの肘掛けの下に、テッシュボックスが三箱、プラスティック製の丸いゴミ箱が一つ置かれていた。
その中に、使用済み注射器数本と丸められたティッシュが入っているのが見える。
何度注射を施されているんだろう。
その度に一人で処理してたんだろうか?
潤は少年の後ろから手を伸ばした。

「俺に貸してみろ」

触りやすいように、少年のズボンと下着を下にずらすと、潤の手が少年の性器を捉えた。

「ァあっ…」

潤に触れられ、少年の身体が小さな声と共にピクッと反応を示す。
身体と一緒で、まだ幼さの残る性器だった。
潤のモノと比べてもかなり細く、色は薄いピンクで、それが張り詰めて揺れていた。
先端からはヌルヌルと液が既に溢れていた。
それを触って扱(しご)いても、潤が欲情するこ とはなく、「こんな子どもに…酷い奴らだ…」と、怒りだけが湧いてきた。

「ん‥すご、く…気持ち…いい…」

素直な感想を少年が洩らす。

「そうだろ? イっていいから」

潤自身が弱いところは、この子も同じだろうと、意識して触れてやる。

「…ぁあ…あん…もう…」

扱くスピードを速め、射精を促した。

「イけよ」

潤のその言葉に押されて、爆(は)ぜた。

「一回で大丈夫そう?」

自分の経験から、潤が少年に訊いてみた。

「うん、いつも一回で、治まるから」
「そうか。じゃあ拭こうか」

潤の手とソファに少年が飛ばした精液が付いている。
それと少年の性器に付着した精液を綺麗に拭き取った。
ソファの染みはもしかしたら精液か?
汚いソファだとは思っていたが、もしここに連れて来られた人間が一人や二人じゃないとして、この少年と同じような状況に置かれていたとしたら、この染みは彼らの放出した精液じゃないだろうか?
このソファは、何人の精液を吸っているんだろう…  ふと頭の中に、B級オカルト映画の映像が思い浮かんだ。
それは精液ではなくて生き血を吸うソファだったのだが。 潤がどうでもいいようなことに想像を巡らせている間に、弘明という名の少年は衣を正していた。

「お兄さん、ありがとう」
「どういたしまして」

少年が頭を下げ礼を言う。
それに潤も応えて頭を下げた。
二人同時に頭を上げ、顔を見合わせると、可笑しさが込み上げてきて、やはり二人同時に吹き出した。
ガチャと解錠の音がして、和やかな空気が一変して緊張が走る。

「楽しそうだな、お前ら。折角仲良くなったところで悪いがお別れの時間だ」

潤をここに連れてきた男と、あと別に三人、部屋の中に入って来た。
男達が少年を捕まえ、手に手錠を嵌めた。

「お前は、クラブから迎えが来た。そろそろクスリにも身体が慣れてきただろう? タップリと働くことだ。恨むなら自分の父親を恨むんだな。連れて行け」

一人の男が、少年を連れて部屋を出ようとする。

「お前ら、弘明に何をさせる気だ!」
「知りたいか?」
「ああ」
「お前に関係ない。とある場所で、客の相手をするだけだ。衣食住完備だから心配するな」

それって、売春じゃないのか?
そんなことこんな幼気な少年にさせられるか!
連れて行かれるのを阻止しようと、潤が少年横の男に殴りかかった。

「・ぅうっ」

腹に凄い衝撃が走り、潤は踞った。
殴る前に一撃をくらった。
腹を押さえて、なんとか立ち上がろうとしたとき、今度は別の男に羽交い締めにされた。

「お兄さん、会えてよかったよ。元気でね」

その一言を残し、少年は潤の前から消えて行った。

「今度はお前だ。悪いが、拘束させてもらう。それから、濃度の高いBBだ。いいぞ、BBは。堪らないから」
「何だ? BBって」
「ブルーバタフライ。さっきの子にも数回打ったが、あの子に使ったのは濃度の低いものだ。最初から高いのだとこの先使いモノにならないからな。心配するな、お前には濃度の高いもの使用してやるからな。天国にいけるぜ」
「催淫剤か?」
「ああ。それと覚醒剤に似た成分も含まれるから、普通のヤツより効くぜ。楽しみにしてな」

男の合図で、部屋の中に椅子とロープが運び込まれた。
二人の男に無理矢理椅子に押し込められると、ロープで上半身を固定された。
腕も上腕部を身体と一緒に括りつけられた。
銀色のトレーが目の前のテーブルに置かれた。
小さな皿とゴムのチューブ、袋入りの注射器が並べられている。
男が黙々と作業を進めて行く。

「お前ら、俺を誘拐したんじゃなかったのか? 金が欲しいだけじゃないのか?
「おいおい、金目的だけでお前を誘拐したと思っているのか? ただの誘拐なら、もっと資産家で背後に黒い繋がりがないヤツにするに決まってるだろ。お前のバックはやっかいだからな。お前は、その厄介モノを誘き出すエサだ。俺たちの目的はお前じゃないし金でもない。お前の恋人の黒瀬だ。黒瀬を潰すことだ。ヤツには死ぬより辛い目に遭ってもらう」

何でこいつらが黒瀬を知ってるんだ?
黒瀬を潰す?
こいつら何者だ?
ただの田舎のチンピラだと思っていたのに、違うのか?

「準備は、出来たな。まあ、じっくり味わえや。滅多に経験できない味だぞ」

やに下がった面で、男が注射器を手にした。
ロープで固定されている上腕部まで袖は捲られ、ゴムのチューブが肘少し上に巻かれた。
手首を椅子の肘掛けに押さえ込まれ、男が針を肘裏真下の青く静脈が浮かび上がった所を狙って刺した。

「やめろ――……っ!」

潤の声が狭い部屋に谺する。
何でこんな事になってしまったんだろ。
…こんなことなら、――こんなことなら…… 意地を張らずに黒瀬のいうとおり、あのまま東京に残っていればよかった。
もし黒瀬に何かあったら、全て俺のせいだ。

…くろ……せ…ッ…ゴ…メ…ン……お、れ……の……