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もう二人の一物はサイズを変えていた。
泡の滑りなのか、別の滑りなのか分からないが、ヌチャヌチャと、勇一の腰の動きに合わせて卑猥な音がたっている。

「勇一、俺の友人止めたいのかっ」
「親友から、セフレに昇格するのも悪くはないぜ。どうせこの先、あの人以上の女に出会うこともないだろうし。ソープで発散もいいけど、俺は別にお前でも構わないぜ、あぁ、…いいぜ…」
「…誰彼構わず…発情しやがってっ…あっ…」
「お互い様だろ。安心しろっ、…たまんねぇな…、男で勃ったのは、お前が初めてだっ」
「…くそっ、……あ…、バカッ…そんなにっ…」

雄芯同士を擦りあわせているだけなのに、二人ともあっという間に沸点まで上りつめた。

「…イこうぜっ…、一緒に…」

時枝の目に、雄そのものの淫欲を隠そうともしない勇一の顔が映る。
その馴染みのない表情に、時枝の心臓がキュッと締まる。

「…覚えてろッ…つっ…あぁっ」
「…勝貴っ、」

二人ほぼ同時に互いの腹に飛沫を飛ばし、果てた。

「……おい、いつまで上に乗ってる気だ。どけ。重い」

果てたまま、重なった状態で動こうとしない勇一に時枝が痺れを切らした。
互いに放出したものが、糊のようになって皮膚の隙間を埋めている。

「イって直ぐのつれない態度は、嫌われるぞ」
「るせぇっ。どけ。折角身体を洗ったのに、また汚しやがって、この変態やろう」

ヤレヤレと勇一が身体を離し、時枝より先に起き上がると、シャワーのノズルを掴んだ。

「ほら、優しい俺様が流してやる。俺は勝貴と違って終わってからもマメなタイプだから」

立ち上がった時枝の腹に向けてシャワーの飛沫を当てた。

「水圧下げろ。痛い」
「はいはい。どこのお嬢だか、このお方は。コレでよろしいで、ございましょうか?」
「組を代表する者が、変な日本語使うな。バカバカしい…て、いうか、お前バカだろ。そうか、バカだ。変態のアホかと思っていたが、バカだ……うん、それなら、納得が行く。バカな勇一が何をしようと、しょうがないかならな。そうか、バカなお前に付き合ってやるためには、俺が次元を下げるしかないもんな…、そういうことなんだ…」

自分に向けられていた文句が、次第に訳のわからない独り言に変わっていく様が、勇一には可笑しくてたまらなかった。
ま、それで勝貴が納得するならいいか。

「何だか分からないが、二人ともバカということでいいんだろう? さあ、湯に浸かろうぜ」

違う、バカはお前一人だとブツブツ言う時枝の腕を引っ張り、勇一は強引に露天風呂へ引き摺り込んだ。

「あ~、朝風呂もいいな。たまには露天もいい」「普段は使ってないのか? 勿体ない」
「リラックスしすぎるだろうが、いつ何時、何があるが分からないのに…。俺だって、武史のことでは、結構ピリピリしてたんだぞ。香港からも色々言ってくるしな。それだけじゃなく、年末は、組同士の小競り合いが起きやすいしな」
「そりゃ、そうだな」
「今夜は武史達と鍋でもするとしよう」

勇一の言葉で、時枝はまだ二人の逃亡を報告してなかったことを思い出した。
自分相手に好き勝手した後なら、文句も言えまい。

「そのことだが、残念なお知らせだ」
「残念?」
「武史…社長と市ノ瀬はもうここを出た」

ピクッと、勇一のこめかみがしなった。

「社長のマンションにいるそうだ」
「どういう事だ? お前が付いていながら、そんな勝手をさせたのか?」
「おいおい、俺は付いていなかっただろが。昨日からお前と一緒にいただろ。俺とお前が留守にしたんでこれ幸いにと、逃げ出したんだろ。お前だって、佐々木が社長から用事を頼まれたことは知ってたんだろ? そこで気付けよ。佐々木も可哀想にな。きっとお前から叱られると思って指を眺めて一晩眠れなかったんじゃないのか?」
「それ、どういう意味だ。俺が佐々木に指詰めろとでも、言うってことか。それこそ、馬鹿げてる。佐々木ごときじゃ、武史の頼みは断れまい。…情けないが、俺でも無理かもな…。それこそ、勝貴ぐらいだろ、あいつに意見できるのは…と、今は市ノ瀬もか…」

勇一は湯を掬い、バシャっと自分の顔にかける。

「…武史は、やはりここが嫌いなんだな…。俺の代になっても、それは変わらないのか」「そりゃ、そうだろ。ここで、体験したことを思えば、好きになどなれるはずがない。しかも、あの小屋、まだあるしな」「…あの時も、気付いたのは俺じゃなくて、お前だった……。情けない兄だ」
「分かっているなら、社長をここに呼びつけるな。お前が会いに行けばいいんだ。俺の仕事と気苦労が増える」

もう一度、顔に湯をかける。

「一応一般人の武史のところに、暴力団関係者が出入りしてたら、目立つだろうが。これでも気を遣ってるんだ。今回は、市ノ瀬を見定めたかったし……あ~あ、もっと武史の顔を眺めたかったな……」
「ふん、結局そこじゃないか。このブラコンが。ということで、俺も向こうに戻るからな。買い物も頼まれているし」「お前だって、あの二人からしたら、お邪魔虫だろうが。向こうの用事が済んだら、年始まで俺に付き合え、な、折角、セフレに昇格したんだし、楽しもうぜ」

勇一の手が時枝の顎に伸びる。

「何するんだ?」
「そりゃ、お前…」

勇一が、時枝の唇を奪った。
バシッと、鋭い音が、露天風呂に響く。

「勇一っ! バカも大概にしとけ!」
「ってぇなぁ。俺に手をあげるとは見上げた根性だ」
「何が、セフレに昇格だ! そりゃ、降格っていうんだっ」

キスをされた恥ずかしさなのか、それとも怒りなのか、とにかく真っ赤な顔で時枝が怒鳴りつけ、そのまま、湯船から飛び出て脱衣場へと逃げていった。

「おうおう、照れちゃって。勝貴も案外可愛いよな…」

ニヤニヤしながら、その後ろ姿を桐生組組長でブラコンの勇一が見送った。