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『うわっ! なんだ、これっ!!』 

やっと気付いたか、へっ、驚いてやがる。  
時枝の後を追い脱衣場に来た勇一が、露天風呂から聞こえてきた時枝の声に、してやったりと意地の悪い笑みを浮かべている。

「勝貴、騒がしいな」
「組長、いきなり入って来ないでくださいっ! つうか勇一、てめぇ、前ぐらい隠せっ」  

手に泡だらけのタオルを持って露天風呂横のシャワースペースで立ち竦んでいた時枝の前に、勇一が素っ裸でやってきた。
手にはタオルを持ってはいるが、それで前を隠すこともなく、堂々としている。

「勝貴も隠してないぞ」 

指摘され、慌てて時枝が泡のついたタオルで前を隠す。

「別に減るもんじゃないし、隠す必要もないだろ。だいたい昔は一緒に3pした仲じゃないか。見慣れてるよ」
「そういう問題じゃない。いきなり入ってきてフリチンとはどっかの組長は見せぶらかしたいのか? 大層なモノをお持ちのようだから」
「はは、自慢じゃないが、女はこれがたまらんらしい。別に真珠は入れてないけどな」 

勇一が自分の一物を持ち上げて、時枝に見せつけた。

「勇一、俺にそんなに見せつけたいのか? アホか」
「アホとは、厳しいな。それより、何喚いていたんだ?」 

その言葉で時枝は自分の身体に起きていた異変にすぐさま意識を戻した。 
脚を少し広げ前を隠してあるタオルをずらし、覗き込むとやはり気のせいではなく、ある。  
両の太腿の内側に、薔薇の花片が舞ったような鬱血痕。 そう通称キスマークが見事に散っている。 
勇一の部屋で着替えるときも先程脱衣場で裸になるときも、場所が場所なだけに気付かなかった。
が、今しがた、身体を洗浄するためにタオルを太腿に滑らせたとき、皮膚の色の変化が目に飛び込んできたのだった。

「…何しているっ」 

時枝が目を太腿から反らすと、床にしゃがみ込んで自分の局部を下から見上げる勇一の顔があった。

 「へえ、綺麗に咲いてるな」
「覗くの止めろ、変態っ」 

時枝がタオルで勇一の頭部を叩いた。

「っイタ…」
「……ま…さか…な…、イヤ、そんなはずはない。ルミか? そんなサービスは…なかった………。あの部屋にダニがいたとか…?」
「何ブツブツ言ってるんだよ。勝貴、キモイよ」 

もう一度、時枝のタオルが勇一の頭部に飛ぶ。

「お前は、どこぞの女子高生か、はん? キモイとか言うな、組員が泣くぞ。一つ聞くが……」
「なんだ?」
「コレは、お前が原因……か?」 
「コレって、このキスマークの嵐のことか?」
「他に何がある」
「ああ、そうだけど」 

悪びれた風もなく、ごく当たり前のことだと言わんばかりに、勇一が肯定した。

「お前、酒が入ると凄いよな。あんな可愛い声で鳴くとは、この長年の付き合いでも知らなかったぜ。つうか、お前、酒強いじゃん。いつも俺の方が先に潰れるからさ。あんな風に乱れられたら手が出るっていうの」 

実際、酔いつぶれた時枝を勇一が好き勝手に弄ったというのが真相だが、その際、時枝は不覚にもある一言を洩らしていた。

『勇一だったら、許すしかない…』 

酔いとは恐ろしいものだ。 
焦がれて止まない人がいながら、それとは別の本心が時枝の口から溢れていた。
何があっても切れることは決してない関係だという想いが、酔って悪戯をされているときに、溢れたのだった。 
その時枝の一言で、ちょっとキスマークの一つでも、と思っていた勇一の心に火を付けてしまったらしい。 
一つ付けた痕が、艶めかしく、いつもストイックな男が息を小さく乱れさせるのが面白く、躍起になってしまった。 
見慣れてはいるが、間近であまり見ることもない友人の一物が形を変えていくさまと雄の匂いに、勇一も興奮を覚えた。 
わざと感じさせるように太腿を攻め、時枝が喘ぎ声を出し、中心を固く勃たせるまで愛撫し、終いには手淫で射精までさせてしまった。
その乱れた姿をおかずに、勇一自身も抜いてしまった。 
時枝のシャツは、酒と二人の精液で汚れたというのが、本当のところだった。

「勇一っ!」 

時枝が勇一に飛びかかり、床のタイルに押し倒した。 
殴りかかろうと右手を振り上げたところを、逆に勇一の手に掴まれ、そのまま、体勢を逆にされてしまった。 
床に時枝、その上に勇一が時枝の両手首を押さえつけ跨っている。

「悪いが、暴力沙汰は俺の方が一枚上手だぜ。何興奮してる?」
「クソッたれっ。お前は長年の友人にも欲情するのか、この変態っ!」
「おっと、お言葉ですけど、先に欲情したのは勝貴の方だぜ?」 

覚えてないことをいいことに、勇一は自分に都合の良いように言い返す。

「俺は、疲れてたんだっ。酔ってたんだっ。ストレスが溜まってたんだっ!」
「おいおい、それじゃ、酔った勢いでスケこましたヤツが、翌日酔ってたから無かったことにしてくれって言うのと同じじゃないか。相手をしてやった俺が可哀想過ぎる。まさか、勝貴がそんな薄情なこと言わないよな。それともナニか? 桐生組組長、桐生勇一を、一般人のお前が、性欲の捌け口に一晩遊んで捨てるとでも言うつもりか?」 

さすが、黒瀬の兄のことはある。
論点をどんどん自分の都合の良いようにすり替えてくる。
被害者は自分だとも言いたげな物言いだ。 
いつもの時枝なら、気付くであろうこの自己中心的滅茶苦茶な論理の矛盾点も、友人との情事をちらつかされ、素っ裸で押し倒された状況下で冷静さを失った時枝には、言い返すことすら出来ない。 ――しかも、

「…あたってるぞ、おいっ、」 

背格好が同じような二人が重なると、当然ソコが触れ合うわけで…

「勝貴のヌルヌルしてる」 

わざと擦りあわせるように 、勇一が腰を動かす。

「今身体を洗ってたんだから、泡だ!」
「ふ~ん、そうか? 泡だけじゃないと思うけどな」
「やめろっ、動くなっ!」
「何で?」
「アホか、考えろっ!」
「感じちゃう~~~、からだろ。いいじゃん、感じれば。ほら、ほら、ほら」 

からかい半分、勇一が腰を振って時枝を煽る。