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訊いても良いんだろうか? 
黒瀬の住む世界がヤバイとは思ってたけど…黒瀬も組員だってことなんだろうか? 
でも、時枝さん見る限り、ソレっぽくはないし、黒瀬自身も何か違う。
あ、でも時枝さん、喧嘩強いんだったっけ? 
俺、殴れなかったんだよな……。
 
訊きたいのに、踏ん切りが付かず、先程から、潤は黒瀬の横顔をチラチラと盗み見している。
潤は佐々木の運転する黒塗りの外車の後部座席に、黒瀬と並んで座っていた。
時枝は助手席に座って佐々木と雑談をしている。
集団の人数からして、マイクロバスかと思っていたら、皆数台の車に分かれて来ていたようで、潤達を乗せた車の前後を走っている。
全て車は黒塗りの外車で、しかもスモークが貼られている。
『俺たち組関係です!』と主張して道路を走っているように思える。

「潤、どうしたの? 気分が悪い? 酔った?」
 
車に乗り込んでから、一言も口を開かない潤に黒瀬が声を掛けた。

「…あのさ…、訊いてもいい?」
「何でもどうぞ」
 
ニコリと黒瀬が微笑む。

「黒瀬って社長だよね?」
「そうだけど」
「…でも…ヤクザ、暴力団の人?」
「80%ノーだけど、20%イエスかな? ふふ、もし私が暴力団員だったら潤は私を嫌いになる?」
 
優しいけど、少し翳りのある目で黒瀬が問う。

「ならない!」
 
強い口調で潤が言い切った。
黒瀬が驚いた表情を見せる。

「バカなこと言うな。俺はそんなことで人を判断しない…というか、黒瀬が普通じゃなくても、俺は好きだ。……黒瀬が普通じゃないのはもう知ってるから。俺に対する気持ちだけを信じているし、黒瀬が世間で悪人でも、好きだ。別にヤクザだったらどうしようと思って訊いたんじゃない。だったら、俺にも覚悟がいるのかなって思って……そういう世界知らないし…皆さん、凄かったから…ごめん、正直空港でビビった…恥ずかしい…けど…」 
「私の雄花は最高だ…潤、愛してる…」
 
黒瀬が潤を抱きしめた。
そして、二人が見つめ合いキスをしようをしたときに…

「ゴホン。盛り上がっているところ悪いですけど、佐々木さんもいらっしゃる事ですし……」
 
時枝の邪魔が入った。

「…いや、あっしの事などお構いなく…うっ…」
 
運転中の佐々木の様子がおかしい。

「…うっ…感動しました……、素晴らしい…、愛って素敵だ……」
 
四〇は過ぎていると思われるこのヤクザな男は、涙腺がかなり弱いようだ。涙を流しならハンドルを握っている。

「…どうぞ…お続けになって…下さいマシ…」
「はぁ、忘れてました。佐々木さんが恋愛映画に弱かったってこと。涙流して見る人だった」
 
時枝が少し呆れたように呟く。

「じゃあ、遠慮なく。潤、好きだよ。大丈夫、何の覚悟も必要ないから……」
「黒瀬…」
 
潤の言葉に嬉しさを隠せない黒瀬と、自分の言葉を口にしたことで気持ちが昂揚した潤は二人の世界に入っていった。
その後目的地に着くまでの間、時枝の疲れた神経を逆なでするような行為が後部席では続いていた。
しかも感動しまくりで涙を流している隣の男が洩らす鼻水を啜る音が、時枝の神経を更に苛つかせた。

…ったく、どいつもこいつもっ!