「さぁ、どういうことか、ゆっくり聞かせてもらおうか?」
二人がいなくなった部屋で、黒瀬の兄、勇一が時枝と向きあう。
「先程、一連の詳しい話は申し上げましたが? まだ何か? 私も少々疲れているのですが」
「事故のことだ。お前が付いていながら、どういうことだ?」
「…ハア…、相変わらずのブラコンですね。二人きりなので、言わせてもらいますが…」
時枝が前置きしてから、勇一のところに詰め寄った。
「勇一、お前の弟は一体なんなんだ? 事故のときだって、自分から車に飛び込んだんだぞ? どれだけ、俺の心臓が縮み上がったかと思うんだ? お前はここで俺の報告をぼーっと訊いていただけじゃないか!」
着流しの襟を掴みあげると、更に時枝の攻撃は続く。
「俺はな、そりゃお前の弟と一生共にする覚悟は出来てる。結構、尽くしてると思うぞ? 先代への恩もあるし、親友のお前の頼みだしな。だがな、俺にも限度っていうものがあるんだ! 電車もないような場所に置き去りにされたり…」
時枝の興奮と共に襟を掴む手に力が入る。
「勝貴、落ち着け!」
切れた時枝に首を絞められるんじゃないかと、勇一が焦ってなだめようと試みる。
だが、効果虚しく……
「レイプの手伝いさせられたり、大人の玩具買いに走らされたり、事故の処理したり、機内で合体しないよう目を光らせたりっ、」
「勝貴、わかったから…苦しいっ!」
本当に首が絞まってきて、勇一が時枝を突き飛ばそうとするが、あまりに時枝が近すぎて、勢いが付けられず、ただ胸を押している状態だった。
「だいたい、誰があの二人を引っ付けたと思ってるんだ! 俺だぞ、俺! 俺がキューピットなんだ―――…っ………」
勇一が殺されると思った瞬間、時枝が叫ぶなり、畳の上に倒れた。
「ゴホッ、大丈夫か、おい、しっかりしろ」
時枝の頬を軽く叩くが、ビクともしない。
「勝貴、こら、起きろ。おいっ!」
言うだけいって、気絶したのか?
「……社長、…あなた…って……」
なんだ、寝言を言っているのか。
しょうがない、寝かせておいてやるか。
こいつがこれだけ切れるとなると……、そうとう鬱憤が溜まってたんだろう……。
溜まっているのは鬱憤だけじゃないかもしれないが… 明日にでもソープに連れていくか?
「おい、誰かいるか!」
「はい、」
「布団を一組、あ、いや二組ここに」
たまにはこいつの顔を眺めながら寝るのも一興か、と勇一は時枝と一晩一緒の部屋で過ごすことにした。