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「露天風呂もある!」
「風呂だけは私も気に入っているよ。あとは広いだけの家だけど」
 
 潤と黒瀬は離れの風呂の脱衣場にいた。
 離れには母屋と別に風呂が付いている。
 檜の内風呂と露天風呂の二つに、湯が張られていた。

「潤、早く脱ぎなさい」
 
さあ入ろうと、黒瀬が服を脱ぎだしたのだが、潤の手が服に掛かったものの、作業が進まない。
上半身が既に裸の黒瀬に背を向け、もたもたしている。早く二人で湯に浸かりたい黒瀬が潤を急かせた。

「…なんか急に…恥ずかしい…」
「さっき、あの人には見せようとしたのに?」
「あれは、俺頭にきてたし…」
「飛行機の中でも見たよ? それ以前に潤の裸は何度も見てるし触ってるけど? 急にどうしたの?」
 
飛行機の中でも散々触りあったし、毛布の下でありとあらゆることはしたのだが、全裸を見せ合うのは、お互いの想いが通じてから初めてだった。早く、黒瀬と肌を重ねたいという欲望が、かえって潤の羞恥心を呼び覚ましていた。黒瀬の裸の上半身を見ただけで、その胸に抱かれたときの感触が蘇って、潤の心臓がばくばく鳴りだした。

「俺さぁ…、あぁ…笑うなよ? …好きになりすぎて、でもって、黒瀬の生肌見ただけで、やばいんだよっ、どうしよう…」
「どうしようって、そんなのこうするに決まってるだろう?」
 
既に脱ぎ終わって腰にタオルを巻いた黒瀬が、まだ自分に背を向けている潤の肩を掴むと、潤の身体を自分に引き寄せた。

「あっ、黒瀬の…」
 
後ろから抱きかかえられた潤の背中に、黒瀬の中心があたる。

「ふふ、潤が服着ていても、十分ヤバイんだけど。もう、待てないから、脱がすよ」
 
裸の黒瀬の体温が直に伝わる。黒瀬の興奮も伝わってきて、潤の身体も熱くなる。子どもみたいに脱がされるのもどうかと思うが、抵抗するのは拒否してるみたいでそれは自分の意思とは違うと、潤は黒瀬の手の動きに身体を預けた。
シャツと下着を一気に剥がされ、黒瀬の手がジーンズにかかる。
ボタンを外し、ファスナーを降ろすと、そのまま下着の中へ手を入れてきた。

「んっ、バカ…ッ」
「本当にヤバイんだね、潤」
 
黒瀬の手で触られ、耳元で、いやらしく黒瀬に囁かれると、更に潤の身体はやばくなる。

「言ってるだろ! 脱がすなら、早く脱がせよ!」
羞恥から潤の言葉が荒くなる。

「はいはい、お姫様、仰せのままに」
「ぁあ」

左乳首を飾るアメジストのピアスをピンと指で弾いてから、黒瀬はジーンズと下着を一緒に降ろした。

「さ、入ろう」
「おい、バカっ。俺は女じゃないっ! 歩ける」
 
潤を剥いた黒瀬は、そのまま潤の裸体を抱きあげた。
新婚カップルでも今時しないだろうと思われる所謂『お姫様だっこ』に、今度は潤は抵抗をみせた。さすがにこれは恥ずかしい。

「暴れないの。ね、どっちがいい? 外? 中?」
 
黒瀬は潤を降ろす気がないらしく、露天風呂がいいのか、檜風呂がいいのか、黒瀬の胸元で赤くなっている潤に訊いてきた。
露天風呂に入りたいが、年末のこの時期、いきなり外は寒い。
潤はまずは檜風呂がいいと答えた。

「っつ、バカッ…、いきなりかよ!」
 
黒瀬に湯船に投げ込まれ、バシャ~ンと水飛沫と共に一度浴槽に沈んだ潤が、濡れた顔を手で拭いながら、黒瀬に文句を言う。

「ごめん、ごめん。あまりに潤が初々しく可愛い顔するから、抱っこしたまま突っ込みたくなってね。それもどうかと思って、」
「だからって、放るなよ!」
「ふふ、でもこれで潤の変な照れも退いたんじゃない? あんな可愛い表情されたら、苛めたくなるだろ? 今日は優しくしてやりたいのに……」
 
黒瀬も湯船に入ってきた。

「今日はって…、明日は優しくしてくれないのか?」
「そうだね、潤次第? ふふ」
「何だよ、それ。優しくしろよ…怖いのはヤダからな……」
 
イギリスでの一室でされたアンナ事やコンナ事が、潤の脳裏に浮かびあがる。
こいつ…変態だから…
ちょっと前のことなのに、そのときの自分を思うと、今の状況が夢みたいだ。

「潤、どうした?」
 
鼻の奥がツンとして、潤は黒瀬に向けていた顔を下に向けた。

「…夢みたいだなって…。現実だよね…黒瀬、幽霊じゃないよな…、俺、今生きてる黒瀬と日本にいるんだよな……」
 
下を向いたまま、語る潤に黒瀬が潤の顔めがけてお湯を弾いた。

「んもうっ、何するんだよっ!」
「ね、現実だろ?」
「バカッ」
 
小さく吐き捨てると、潤は黒瀬の後ろに回って、黒瀬の背中に話しかけた。

「車の中でも、組長の前でも言ったけど、俺、本当に好きだから…黒瀬が悪人でも好きだから……。あんなに酷いことされたのに、お前のこと好きな俺って黒瀬同様変態かもな…」
「酷いな、人のこと変態って。ん、潤?」
 
潤が黒瀬の背中の傷に指を這わす。

「…そのうち、俺にもお前の傷分けろよ、そういうものって、分かちあうものだろ? 俺たち…その…恋人同士だよな?」
「もちろん。その傷、気になる?」
「うん。でも綺麗だな。黒瀬には嫌な思い出かもしれないけど、ピンクで花びらが舞っているようだ」
「くすぐったいよ。こら、止めなさい…潤、こらっ」
 
本当にくすぐったいのか、黒瀬の背中が捩れる。

「もう、悪い子だ。そんな子には…」
 
したいようにさせていた黒瀬が潤の方を振り向き、潤の中心をぎゅっと掴んだ。

「…お仕置き」
「痛いっ! バカッ、放せよっ」
「痛いだけ?」
 
意地悪く黒瀬が訊く。
痛さで縮むどころか、逆に黒瀬の手の中で育っている。
痛みとは違う感覚の方が強いことは、もちろん承知のうえだ。

「優しくするって、言った…」
「言ったけど? でも、お仕置きとも言ったよ? 痛いだけじゃないよね?」
「…じゃない…けど…」
 
更に黒瀬の握る手に力が入る。そこから頭まで突き抜けるような、痛みと痺れが走る。

「ったぁ…っ、あぁ…ん…」
 
折れると思うぐらい握りしめられ、その後急に緩められた。
一気に血流が良くなり、湯の中で、潤の雄芯はピクピク揺れ始めた。

「私のも触ってごらん」
 
湯船の中で腰に巻いてあったタオルを外すと、黒瀬は潤の手を自分の中心に導いた。

「…凄い…」
 
何もしてないのに、それは潤のと同じくらい、いやそれ以上に張り詰めており、潤の手の中で潤同様ピクピク跳ねていた。

「私たちしか、ここ使わないから。ふふ、」 
 
黒瀬が潤の腰に両手で掴み、自分の太腿の上に潤の臀部を乗せた。
父親の膝の上に子どもが向き合って座っている形をもっと窮屈にした感じで、潤と黒瀬の互いの性器が場所を求めて擦れ合う。

「一緒に達こう、ね」
「…黒瀬……」
 
湯より更に熱い黒瀬の熱を直に感じ、潤の身体も心も蕩けそうになっていた。 
とろ~んとした目で自分を見つめる潤を、黒瀬も妖しく見つめ、視線を絡ませたまま、潤の唇に自分の唇を落とした。 
優しく始まった口吻は、お互いの欲望のままに激しさ増した。
相手が欲しくて貪りつくし、蹂躙しあう。浴室に、淫らな水温だけが響く。
その激しい口吻に合わせるように、黒瀬の潤の腰に置いた手が、潤の上半身を揺らす。
それが、お互いの雄芯を摩擦させ、一気に沸点へと押し上げた。

「…あっあぁ、黒瀬…」
「潤、可愛い…ッ…」
 
その瞬間、潤は黒瀬の首に巻きついた。
潤が先に爆ぜ、精を浴びた黒瀬が後を追うように爆ぜた。

「黒瀬……好き……、あれ……」
「潤?」
 
黒瀬に身体を預けたまま、潤の身体から力が抜けた。

「あ~あ、湯あたりおこしちゃったかな?」
 
時枝同様、潤もクリスマスイブから殆ど寝ていない。
黒瀬のもとから逃げ、目の前で黒瀬が車に跳ねられ、そして黒瀬のことを想い、飛行機で再会して、ラブラブモード全開で機内でアレコレしていて、実はあまり寝てなかった。
しかも、地上に降りてから、今度は黒い集団に囲まれ、ヤクザの家で組長と緊張のご対面を果たし、その後が、この入浴である。
時枝ほどではないかもしれないが、潤の身体も疲労のピークに達していた。
ただ、本人は、黒瀬との再会で舞い上がり、その自覚がなかったのだ。
そんな身体で湯に浸かり、しかもその湯の中で興奮するようなことをすれば、当然身体は悲鳴をあげるだろう。

「可哀想に、色々と疲れてたんだね」
 
黒瀬は潤の身体を脱衣場に運ぶと、自分と潤の身体から水分を拭った。
自分だけ浴衣をまとい、潤は裸のままで部屋に運ぶと、用意されていた布団の上にそっと潤を降ろした。