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好きな匂いと安心感を与える温もりを肌で感じながら、心地よい眠りを堪能した潤が目覚めた。
といっても、まだ目を開けているわけではないのだが、取り敢えず、脳が覚醒した。
…夢じゃないよな…
潤は瞼を開け、現実の状況を確認するのが怖かった。
…恐怖の飛行機に乗ったこともイギリスでのあり得ない経験の数々も…何より黒瀬のこと全てが、夢物語だった…なんてこと……
もしくは殆どが事実で、最後の黒瀬が生きて目の前に現れた所だけが、実は俺の願望を反映した都合の良い夢だった、なんてことが…………あったらどうしよう…

「潤、起きてるんだろ? 瞼がピクピクしてるよ」

潤の杞憂をよそに、黒瀬の声が耳元で響く。
それでも目を開けられなくて、寝たふりをきめこんでいると、横にあった温もりが重さと共にドサッと潤の上に覆い被さってきた。

「目を開けなさい。開けないと…」
「うわっ、」

耳の穴にヌルッと舌を突っ込み舐められた。

「お早う、潤」

驚いて、目を見開いた潤に黒瀬が笑顔で朝の挨拶をする。

「お早う…黒瀬だ……良かった…」

そういえば、昨日も一緒に風呂に入ってて、現実かどうか不安になったんだっけ?
あれ、そういえば、風呂に入ってから、どうなったんだっけ?

「昨日、俺ら一緒に風呂に入ったよな? それから……」
「潤、気を失った…というか、寝ちゃった。湯あたりじゃない? 気分悪いとかない?」
「大丈夫。それより…俺だけ裸なんだ…。黒瀬…」

潤が自分の上にいる黒瀬の背中に腕を回し、視線でキスをせがんだ。
朝の挨拶らしい、軽めのバードキスを黒瀬が潤にした。

「それだけ?」
「何が?」

意地悪く黒瀬が訊いてくる。

「しよ、黒瀬。俺たち、まだちゃんとしてない。前にヤったときは、俺はまだ恋人じゃなかった。なあ、ちゃんと恋人として、しよう。じゃあないと、俺…これが夢じゃないかと不安なんだ。夢じゃないと刻みつけて欲しい…痛くてもいいからさ。それに…」
「それに、なんだい?」

黒瀬が更に潤の言葉を誘導する。

「俺も男だからさ、好きなやつとは単純にヤりたい…あれ? 俺の場合はヤられたいっていうのが正解??? 朝っぱらから、俺変か?」

大胆な誘い文句を発しながら、実は潤は必死で緊張を押さえ込んでいた。
昨夜同様、羞恥心も込み上げており、黒瀬の背に置かれた手は小刻みに震えていた。

「ふふ、潤も私と同じだね。昨日出来なかったから、私も早く潤と睦み合いたいと思っていたよ。可愛い寝顔と裸で一晩中私を煽ったんだから、覚悟はいい?」
「覚悟?」

恐る恐る潤が訊く。

「啼かせるかしれないよ?」
「望むところだ!」

強がって潤が答える。
緊張が更に高まるような黒瀬の言葉も、裏返せば、それだけ激しく愛し合うということで、嬉しい現実を体中に刻みつけて欲しいと潤は思った。
潤の上で黒瀬が素早く着ていた浴衣と下着を脱ぐ。
黒瀬の欲望も潤の欲望も既に形になって現われており、臍の下に押しつけられた硬い熱に潤の身体が一瞬強ばった。
その先への期待から背筋にぞくっと甘い電流が走り、乳首が、特にピアスをしている左側がズキンと甘く痛んだ。
潤を妖しく挑発するように見つめながら、黒瀬が潤の両脚を自分の脚で割り、その間に自分の下半身を沈める。

「散らしてもいい?」

潤の蕾に黒瀬の先端が押し当てられた。

「早く欲しい…」

甘ったるく時間を掛けた前戯など欲しくなかった。
裂けてもいいから早く自分の中に黒瀬が欲しかった。
依然口から心臓が飛び出そうなほど緊張もしていたし、突き上げられる痛みを思いだし、激痛への恐怖心も湧いてきた。
しかし、今与えられるものが激痛であろうと、それが黒瀬の命を感じるものなら我慢してでも今すぐに欲しかった。
実際は生存していたのだが、それほど『黒瀬の死』が潤に与えた衝撃は大きかった。

「裂けるよ?」

潤の不安と焦りを見抜いているか、黒瀬は指で解そうともしないで、押し当てた先端で蕾をこじ開けようとしている。
潤の様子を伺いながら、黒瀬も潤を傷つける覚悟を決めていた。
もちろん、潤が拒めばそんな乱暴なことはしない。
自分が潤を欲しているように、潤も自分を欲していて、甘美な欲望だけでは、補い切れない不安を潤が抱いていることは、昨日からひしひしと感じていた。
潤が一番欲しいのは、これが現実であるという確証なのだと、黒瀬は気付いていた。

「いい。裂けたら手当してくれるんだろ?」

むしろ痛みが激しければ激しいほど、夢でない証拠のような気がして、潤は一秒でも早く黒瀬が欲しかった。
グッと自分から黒瀬の先を迎え入れようと蕾を押しつけた。メリッと微かに音がする。

「早く、黒瀬。…待てない、散らしてくれるんだろ」

自分を傷つける程、本気で愛してくれるのかと、潤が黒瀬を挑発した。

「せっかちだね」
「…んっ!」

黒瀬が一突きする。黒瀬の先端は濡れていたが、潤の入り口も内部も乾いており、潤の想いとは裏腹に侵入を拒もうと頑なに花弁を閉じようとする。
それを文字通り黒瀬が一気に散らした。